IoTパートナーコミュニティフォーラム Season-6 レポート
2019年6月18日、「IoTパートナーコミュニティフォーラム Season-6」が株式会社ウフル セミナースペースにて開催されました。IoTパートナーコミュニティはオープンイノベーションを通じたビジネス創出を目的とした活動で、現在6期、3年目を迎え、49社が参加しています。
2019年1月~6月のSeason-6では7つのワーキンググループ(以下WG)、IoT×AI、セキュリティ、ウェアラブル活用、物流、オフィスIoT、ヘルスケア、地域創生が活動してきました。イベントは基調講演から始まり、7つのWGのリーダーが活動成果を発表、最後はいくつかのWGリーダーにパネルディスカッションでお話を伺う形式で進められました。
基調講演
「IoTが繋ぐモノコトの変化と未来」
株式会社ウフル 八子 知礼
5年前(2014年)、「IoT」はガートナーのハイプサイクルで期待値の最高峰にいました。しかし2018年のハイプサイクルでは「IoT」というキーワードは「IoTプラットフォーム」に変わり、データを蓄積、利用するという標準化の流れが重要視されてきています。「IoT」そのものはハイプサイクルの図にはないものの、幻滅期のどん底から少し立ち上がったところにあり、社会実装や稼げるビジネスモデルとなるフェーズになりつつあると考えられます。
経済産業省がまとめた「新産業構造ビジョン」には将来実現したいビジョンが具体的に列挙されています。例えばスマートストアやスマートシティなどがありますが、まだコンセプトレベルです。八子は「要素技術はそろいました。実現した世界のイメージも描かれていますが、まだ実装の手前の段階です」と指摘します。
現在のIoTにおける重要なコンセプト「Digital Twin」(リアルな世界と同一の環境をデジタル空間上にシミュレーションし、リアルな世界へフィードバックする)も、まだ実現できていません。個々の現場におけるIoTの取り組みは進み、可視化や改善は実現できているものの、全体最適はどうでしょうか。八子は「まったくできていません。これまでの取り組みは間違っていませんが、全体最適の観点でつなげていかなくては、それぞれの現場でIoTが止まってしまいます」と危機感を示しました。
新しい技術により、ビジネスのプロセスやモデルは刻々と変化しています。例えば3Dプリンタの登場で、南米やロシアなど輸送コストがかかるところでは現地で部品を出力しています。将来的には在庫や物流を不要にすることができるかもしれません。製造業ではAdditive manufacturing(部品を削り出しではなく積層化して作成)、Generative Design(自然界が形成したものを参考にデザインする)といった技術もあり、プロセスが変化していくことが予想されます。こうした動きは5Gが加わることで、より加速していくのは必至です。
先述した経済産業省の資料などから、いつどのような順番で技術が社会実装されるかを並べてみると、現在はDigital Twinが進みつつある段階です。AI活用や高度なAIを搭載したロボットはまだ社会実装レベルに至っていません。八子は「細分化ではなく渾然一体としていないとなりません」と言います。
小売流通業の将来像には下図のようなものが構想として挙がっています。店舗は不要で、自動走行(MaaS)する倉庫のようなもので販売したり、デリバリーのマッチングで効率化を実現したりすることもあるかもしれません。こうなると、小売、物流、金融、ヘルスケアなど多様な要素が融合したモデルとなり、これまでの概念では業界が定義できなくなります。
ただし、どのような要素技術を組み合わせればいいのかはおおよそ分かっています。以下の要素をどのように組み合わせていくかがポイントとなります。
最後に八子はこう述べて講演を結びました。「これからは全体最適を考え、業界をまたいで実装していくことを目指していくことが重要になります。足元の現実を見ると、まだ課題があります。今日ここで現実的な取り組みや事例を棚卸しして、それぞれが次のステージへと向かっていただきたいと思います」
WG活動成果発表
物流WG
令和時代の物流に求められるトレーサビリティ
~GDP・HACCPに対応した位置・温度管理~
ユーピーアール株式会社 目黒 孝太朗氏
物流業界では人手不足が課題で、特に荷物の積み下ろしもするドライバーの負担が増えています。同時に食品衛生管理のHACCPと医薬品適性流通のGDPなどの制度化も進んでおり、トレーサビリティや温度管理が重要になっています。物流WGではトレーサビリティの施策として、SORACOMのLTE回線を利用し、携帯電話基地局の位置情報で経路監視ができるのか実証をしました。
東北新幹線での高速移動、都内の地下鉄にて計測したところ、位置情報は駅以外の地下区間やトンネルでは取得できないものの、ほとんどの場所で取得することができました。また、各種配送事業者の配送サービスで試したところ、滞留や経由地など、配送事業者が提供する追跡サービスよりも詳細な履歴が把握できました。
今後、ドライバーの負担を増やさずに、より詳細な追跡を行う方法として通信機能とセンサー付きの通函(箱)または通信機能なしの使い捨てロガーが考えられます。来期は使い捨てロガーの通信機能実現性の検討、温度変化の追跡を検証、加速度ロガーの検討、モノの屋内・屋外のロケーション管理などを計画しています。
IoT×AI WG
「旭鉄工の熟練工」の技術継承にIoT×AIが挑む
株式会社セゾン情報システムズ 梅崎 猛氏
IoT×AI WGでは、加熱した金属を大型ハンマーで叩いて形状を加工する、エアードロップハンマー(型打鍛造)をテーマに活動しました。旭鉄工様より鍛造工程における作業データを提供いただけたので、AIで分析してベテランと新人の操作の違いについて考察しました。
取得できたデータはエアードロップハンマーを操作する足踏みペダルの踏力、バルブ開閉、エア圧力などです。時系列でグラフ化すると、新人は波形が細かく不安定でした。作業の様子を見ると、新人だと加工中の製品が作業台で跳ねていることも分かります。どうすれば熟練者の操作に近づけるかが課題です。
あらためてWGでグラフを考察すると、ベダル操作の強さとテンポに視点が集まりました。ただしテンポはペダル操作を起因とした因果関係なので、品質との相関関係を見るならペダル操作になります。技術継承のための案としては、うまくいった時の踏み方を記憶するボタンと再生するボタンを作ること、踏むたびにスコアを付けて操作の善し悪しを体感することなどが挙げられました。必ずしもAIにこだわらないことも重要な観点です。
今後は仮説の確認、不足データの補完、実装と検証について検討していく予定です。
ウェアラブル活用WG
ウェアラブル活用の新しいユースケース創出に向けて
株式会社Enhanlabo 座安 剛史氏
ウェアラブル活用WGでは「ウェアラブル×IoTのエコシステムを一緒につくっていく」を活動主旨としています。前Seasonでは高圧ガス保安作業のためのウェアラブル活用を発表したところ、業界紙の取材を受けるなどの成果につながりました。
今Seasonは当初から課題解決にウェアラブルが使えるという認知を高めていきたいという意向がありました。そのため事例からウェアラブル活用の可能性を訴求したり、他WGや各パートナー企業の実案件に適応させる提案を進めたりすることを考えていましたが、活動の活性化には苦労しています。
WGで検討したところ、活動を活性化するには「ウェアラブルで価値が成立する場を創出することが必要」との結論に至りました。使用用途の提案やアイデアを募る仕組みも必要です。そこで今後はウェアラブル活用をテーマとしたアイデアソンやハッカソンの開催を目指すことにしました。
次Seasonでは「ウェアラブル×サバゲーハッカソン(仮称)」の開催を目指します。開催予定時期は2019年9月~10月で、7月中旬頃に集客を開始する予定です。ハッカソンを通じて認知を高め、ビジネス化へのブラッシュアップに発展することが期待されています。
ヘルスケアWG
病院とメーカーをつなぐモノのプラットフォーム
サトーヘルスケア株式会社 友澤 洋史氏
近年医療業界ではカテーテルや整形インプラントなど、オペ室周辺でRFID管理のPoCが始まっています。今回の構想のきっかけは手術で使う鉗子やメスなどに二次元コードをつけて滅菌や使用回数のトレーサビリティができるクラウドサービスがあり、このサービスにオペ室回りの物品管理を集約すると面白いのではと思いついたところでした。
2018年7月からは名大病院でスマートホスピタル構想のプロジェクトが始まり、同年10月にウフルの米田も協力し、「SmaHosCloud(仮称)」というプラットフォームの構想を描き、2019年3月にPoC機材納入へと進みました。インプラントで使う機材は短期貸し出しで数が多く、管理が大変なのでRFIDで登録などの手間を減らすのが狙いです。2019年4月にはこうした取り組みを日本医学会総会でも発表しました。
2019年7月に開催される国際モダンホスピタルショウ2019では、友澤氏が所属するサトーヘルスケアをはじめ、共に共創するパートナー各社がセミナーで登壇します。「Society 5.0に向けた10年後のヘルスケアが目指すべき姿」が採りあげられる予定です。友澤氏は「看護の”看”という字は手を当てて診るというのが由来になっていて、IoTなどで業務効率化が進むことで看護師が患者に触れる時間を増やしていければ」と意向を述べました。
地域創生WG
災害対策WGから地域創生WGに変更してみて
三井共同建設コンサルタント株式会社 弘中 真央氏
当WGは今期で3期目です。メンバーの意見を踏まえより幅広いことに取り組めるよう、今期から災害対策WGから地域創生WGへと変更し、より幅広いことへ取り組めるよう変更しました。今期は、傾斜計のパッケージ化や公募案件への参加に取り組みました。
傾斜計のパッケージ化については、前期で開発した傾斜計を、徳島県美波町に設置しました。美波町には、WGメンバーのSkeed社が参画したメッシュネットワークが構築されており、本実証実験でもメッシュネットワークを利用しました。センサーは、土砂災害特別警戒区域内の崖にセンサーを設置し、崖が崩れ、センサーが倒れた際にアラートが通知される仕組みです。現地調整及びセンサーの設置は、2019年6月に1泊2日の短期間で実施しました。現在この傾斜計はパッケージとして提供可能になりました。
2つ目の取組みとして、公募案件へ参加しました。結果は、残念ながら非選定に終わりました。来期では、継続して公募案件への応募や提案活動を行っていきます。加えてPoCを行ったものは、継続利用の提案、広報、他地域への提案などを進めていく予定です。分野については防災以外の地域創生にも挑戦していきます。
セキュリティWG
IoTセキュリティに関する行政の対策と啓蒙活動
株式会社アットマークテクノ 實吉 智裕氏
昨今ではIoTがPoCから本番運用へと進むケースが増えてきているものの、セキュリティに関する知見や検討が十分ではないことが課題になっています。そのため今期では、前期で開発したIoTセキュリティテストベッドを用いるなどして、セキュリティの啓発活動を実施することにしました。
2019年4月、「IoTセキュリティセミナー ~行政の動向と最新のIoT ソリューション活用事例~」と題して、総務省にご登壇いただくなどしてセミナーを開催しました。引き続き、啓発活動を中心に各社のビジネスにつながる方向で活動していきます。
また最近気になる総務省の活動として、「NOTICE」と電気通信事業法 端末設備等規則の一部改正について解説しました。「NOTICE」はNICTがインターネットプロバイダと連携し、サイバー攻撃に悪用されそうなIoT機器を調査し、利用者への注意喚起を行う取り組みです。
もう1つの規則改正について、3月1日に総務省よりガイドラインが発表されました。対象機器は公衆通信網に直接接続する機器ですが、今後USBドングルとCPUボードの組み合わせなどでは認証の対象となるなど注意が必要になりそうです。
オフィスIoT WG
総務の課題解決 事例について
M-SOLUTIONS株式会社 植草 学氏
オフィスIoT WGの今Seasonの活動は実証実験、ソリューションガイド更新、お困りごとチェックリスト作成などを行いました(件数が増えず、現在は保留)。定例会はそれぞれのオフィスを見学できるように、参加企業のオフィスをめぐりました。
テストベッドは備品IoTで行いました。ボタンは冷蔵庫や会議室に設置され、備品が切れた時に押すとSlackやメールで通知されるというものです。冷蔵庫のボタンは開閉で落ちてしまわないように軽量なものにしたり、ペアリングが切れないような工夫をしたり、データを収集しやすくなるように運用を改善したりしました。またポストに設置して郵便配達員に押してもらうとか、在庫管理に応用する可能性もありそうです。
総務担当者にヒアリングしたところ「通知はありがたい。人手が足りなければ月額1000円程度であれば払える」とのことでした。また冷蔵庫は1日に2回チェックしていたところ、1回の運用に改善できたそうです。
6月5日にはオフィスIoT共催セミナーを実施しました。来場者は20名でした。アンケート結果によると、満足度は高く、盛況でした。今後は「オフィス」に限定されないように、名称を検討する予定です。
パネルディスカッション
テーマ:PoCにおける課題と解決のミソ
ファシリテーター:株式会社ウフル 八子 知礼
パネリスト:
- ヘルスケアWG リーダー
サトーヘルスケア株式会社 友澤 洋史氏 - IoT×AI WG リーダー
株式会社セゾン情報システムズ 梅崎 猛氏 - 物流WG リーダー
ユーピーアール株式会社 目黒 孝太朗氏 - 地域創生WG リーダー
三井共同建設コンサルタント株式会社 弘中 真央氏
--PoCで失敗した経験やPoCにおける課題を教えてください
目黒:かつて移動スーパーの取り組みで、ドライバーへの通知で売上向上が見込めると進めていましたが、新たに来られた上長がドライバーの負担が増えることを懸念して案件にストップがかかることが起きました。
友澤:病院の案件で病院長が代替わりしたら、突然非協力的になってしまい、必要なデータを直接もらえなくなったことがありました。PoCのオペレーションの認識にずれがあり、上長が激怒することもありましたが、結果的にきちんと理解していただき、PoCを推進するのきっかけにもなりました。
梅崎:プロセス全体に適用しないと効果が検証できないものもあるため、PoCとパイロットを分けて考える必要があります。またPoCであるにも関わらず、失敗が前提にない、成功することが当たり前になっているケースがあり、失敗するとPoCをやろうとした人に悪い評価がついてしまうようなこともあります。
弘中:屋外でのPoCでよく起きるのはバッテリーの問題です。山中など、PoCの現場までは人手で持ち運ぶため、労力がかかりますし、運搬中に落として損傷することも。現場に持参し忘れたり、水中に工具を落としてしまったりすることもあります。
--それぞれの課題をどのように克服していますか?
目黒:PoCのために特別に配送するのではなく、既存の配送サービスをそのままユーザーとして利用することで実証実験したため、PoCのための配送費用を準備することも回避できました。
友澤:PoCという言葉ではなく、有償トライアルと表現して少しでもお金を貰うようにしています。例えば、消耗品(RFID)だけでも払ってもらうなど協力をお願いしています。普段からビジネスで接点を持っているので理解してもらえています。
梅崎:PoCとパイロットが混同されがちなので範囲を明確にしています。失敗もきちんと評価する、PoCの結果には失敗が含まれることをきちんと理解していただくようにしています。
弘中:公共案件など失敗が許されない場では代替手段を準備しておき、いざとなったら切り替えます。普段から別案件でも使うことを見据えて、予備のデバイスやバッテリーをストックしています。
--パートナーコミュニティで協働できてよかったことを教えてください
目黒:物流WGでは物流企業以外のメンバーがいるので、自社では得られないノウハウや発想を得ることをできたのはよかったです。まだビジネスにはつながっていませんが、課題や目的意識を共有し、信頼して相談できる仲間ができました。
弘中:普段の所属がコンサルタントなので開発工数は評価されず、問題解決が中心になります。コミュニティでの取り組みを通じて他社ソリューションで知見が広がると、今後のビジネスで広がるのでとてもいいと思います。自社だけではできない広島サンドボックスへの取り組みなどができることで、チャレンジの幅を広げることができました。
友澤:これまでレガシーなビジネスが中心でしたが、ここで新しいテクノロジーやソリューションを知ることにより、ビジネスの幅を広げることができそうです。逆にコミュニティ以外の場で、コミュニティで知り合った人を紹介するなどして恩返しをしています。
梅崎:先ほどの課題解決について補足させてください。作業範囲を決める時に担当者決済ですむ金額に収めれば、範囲が広がることを防ぐことができます。シミュレーションで分かるようなことは除外し、「ここだけ検証できればいい」ところに絞ります。
友澤:同感です。私たちも「本当に検証したいこと」を明確にして、投資金額も作業範囲も圧縮するようにしています。
--最後にパートナーコミュニティメンバーに一言メッセージを
梅崎:このコミュニティのいいところはいろんな知見や協力が得られること、失敗を責められないことだと思います。チャレンジしやすいので、何か新しいことを始められたらと思います。
弘中:会社からは情報収集よりもビジネスに直結することが望まれていますが、知見が広がるなど得ることが多いコミュニティなので、皆さんに感謝しています。定期的に会合やフォーラムがあり、何とか取り組みを前に進めようとしている、そういうところからも知見が得られるのがいいと思います。
目黒:IoTパートナーコミュニティに参加するようになって「こんなにIoTに関係する会社があるんだ」と驚きました。これまではお客さまからの自社ソリューション以外の相談は断っていましたが、今ではパートナー企業と連携することで、お断りすることが減りました。それによりお客様からたくさんのお声がけをいただくようになりました。
友澤:私もこれまで知っていた企業やそのソリューションは限定的でした。IoTは1社ではできないということ、パートナーとの協創の必要性をひしひしと実感しています。
八子:いろいろとご発言があったように「自社ではできないことが増えた」、「販路が広がった」、「断る回数が減った」、「失敗してもいいと思えるようになった」などはみんなで取り組むメリットです。パッケージ化へ進むWGもあるように、お互いを紹介し合うなどして、これからもエコシステムが広がることを事務局として期待しています。7月からはSeason7が始まります。次回12月開催のパートナーフォーラムではウェアラブルWGのサバゲーイベントの結果含め、多くの活動成果をオープンにできればと思います。ありがとうございました。
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