Salesforce・AWS・モバイルオーダーシステムの連携活用で
VIPルームのサービス品質向上、業務効率化を実現
事業統括本部 事業運営本部 飲食開発部 FBサービス課 納屋 聡美 氏 (写真:右)
IT本部 情報システム部 西田 豊 氏 (写真:左)
VIPルームを支える3つのシステムの老朽化や連携不足がサービス品質向上・業務効率化の阻害要因に
「めざせ世界一」のスローガンのもと、2010年以降だけでリーグ優勝と日本一を計7回達成したプロ野球の常勝球団、福岡ソフトバンクホークス。その運営会社である福岡ソフトバンクホークス株式会社は、ファンとの絆を大切にする「ファン第一主義」を掲げ、顧客へのサービスにおいても世界一を目指しています。そして、ファンにとって魅力的な体験を提供し続けることで、球団を日本屈指の人気チームへと成長させました。
そんな同社が、ファンエンゲージメントを高めるサービスの1つとして長年提供してきたのが、VIPルーム「スーパーボックス」です。このサービスは、ホークスの本拠地であるみずほPayPayドームの4~6階に設置されたVIPルームという非日常空間において、専用ゲートからの入場やくつろげる特等席での試合観戦、シェフ特製のバリエーション豊富な食事など、最高のおもてなしを提供するというもの。年間契約した企業関係者を主な顧客とし、取引先との商談や接待、社員の福利厚生などに多く利用されています。全117室という膨大な室数は、他球場における同様のVIPルームの数と比べても突出して多く、福岡ソフトバンクホークスにとって欠かせないサービスの一つといえます。
1993年のドーム開業時に運用が始まり、大きな役割を担ってきた「スーパーボックス」。一方で、運営側の内情としては、サービスを支える予約管理システム・Web予約システム・セルフオーダーシステムという3つのシステムに起因する多くの課題を抱えていました。事業統括本部 事業運営本部 本部長の吉村徹氏はこう振り返ります。
「まず予約管理システムは、お客様から営業担当者経由で申し込まれた予約情報を入力・管理するものですが、10年以上の継続利用によって老朽化し、時代や業務形態の変化に対応しきれなくなっていました。また、利用人数やコース料理の注文などの情報をお客様に事前に入力していただくWeb予約システムも、5年以上使い続けていてWebサイトの見た目が古い、スマートフォンだと画面表示が崩れるなどの問題がありました。さらに、当日にお客様が部屋からiPadで料理などを注文するセルフオーダーシステムについても、在庫状況が画面に反映されるまでのタイムラグにより、注文できたのに実際には売り切れているなどのトラブルが発生していました」(吉村氏)
加えてシステム全体としても、構築したベンダーがそれぞれ違い、プラットフォームやデータ構造が異なっていたため、データ連携に時間がかかる、障害発生時に原因の切り分けが難しいなど、運用・改善のスピード感に欠けるものとなっていました。
予約管理システムの老朽化 |
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Web予約システムの機能面の課題 |
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セルフオーダーシステムの非効率性 |
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Salesforce・AWS・ウフルのモバイルオーダーシステムを連携させてシステムを刷新・統合するウフルの提案を採用
同社は、顧客の利便性と体験価値の向上、および業務の効率化を図るため、バラバラだったベンダーを1社に絞り、システムを刷新・統合するプロジェクトを立ち上げました。新たなパートナー候補として声をかけたベンダーは5社。その中にウフルが含まれていました。ウフルとはもともとスタンドの座席から飲食物を注文するシステムとしてウフルの「売り子ール」を採用していて接点があった、という背景もあります。
そして、最終的にウフルの提案を採用したのは、Salesforce・AWS・売り子ールを利用するシステム構成で、本プロジェクト直前に営業用のCRMとして導入済みだったSalesforceとの連携をイメージしやすかったからだ、とIT本部 情報システム部 西田豊氏はいいます。
「今回のシステム刷新で一番難しいと思っていたのは、予約情報をいかに自動でシステムに取り込むか、という点でした。従来は、営業担当者がお客様から承った予約の情報を営業システムに手入力したあと、スーパーボックスの担当者が紙で出力されたその情報を予約管理システムに再び手入力する、という煩雑な工程が必要でした。ウフルの提案内容だと、Salesforce同士の連携により、営業の入力した情報をそのまま予約管理システムに取り込めるので、データ連携の迅速化と業務効率化を実現できると考えました」(西田氏)
そのほか、Salesforceはセキュリティが強固であることや、年3回のバージョンアップにより安心して使い続けられることなども選考のポイントとなりました。
プロジェクト進行について、西田氏は次のように語ります。
「ウフルにプロトタイプを適宜作成してもらいながらプロジェクトを進めることで、開発段階からスーパーボックスの担当者と完成イメージを共有できたのは非常に助かりました。特に、画面やレポートの形が具体的に見えるため、お客様にとっての見た目や使い勝手、現場での利用法をイメージしやすく、チームでゴールを共有しながらプロジェクトを進めることができました」(西田氏)
また、構築後の運用についても、シーズン開幕前の運用シミュレーションやトレーニングでウフルによるレクチャーを受けたことや、ある程度使い慣れるまで現場待機のウフルの担当者から常時サポートを得られたことにより、運用が安定するまでの期間を短縮できた、と西田氏は振り返ります。
データ連携による空室・予約状況のリアルタイムな可視化で営業・サービスの最適化を実現
新たに構築されたシステムは、「スーパーボックス」のサービスに変革をもたらしました。まずは予約管理システム。営業担当者が営業用のSalesforceに予約情報を入力すると、連携先の予約管理システムに自動的に登録されます。逆に、予約管理システム内にある空室情報も、営業用のSalesforceにリアルタイムに連携されています。事業統括本部 事業運営本部 飲食開発部 FBサービス課の納屋聡美氏は、その利便性についてこう話します。
「以前は予約情報を手動で入力・連携していたため、情報共有にどうしてもタイムラグがあり、営業側には実際の空室状況が見えない、現場側にはどんなお客様がいつ来るのか直前にならないとわからない、という問題がありました。それに対して新システムでは、営業担当者がリアルタイムな空室状況を見て、空いている日時を仮押さえして営業をかけ、契約がまとまったら確定情報を入力するという、状況を正しく把握した上での迅速な活動が可能です。一方の現場でも、予約がどの日に何件入っていて食材がどれぐらい必要か、お客様はどういう方なのか、という情報をひと目で把握し、おもてなしの準備を円滑に進められます」(納屋氏)
一方、AWSで構築されたWeb予約システムについても、顧客が直接触れる「スーパーボックス」のWebサイトにふさわしいリッチな見た目と、スマートフォンにも対応した画面・UIになっただけでなく、従来できなかったことが可能となっています。
「以前は、お客様によって入力された情報がシステムに反映されるまでのタイムラグの都合上、コース料理などの事前予約の締め切りを当日の5日前までと設定し、それを過ぎるとWeb上では予約できない仕様でした。その点、新システムにはタイムラグがないので、お客様からご要望があれば締め切りを瞬時に変更するなどの対応が可能です。また、予約管理システムとの連携により、来訪日程の予約が入ったときやコース料理の事前予約の締め切りが迫ったときなど、最適なタイミングで『コース料理を事前予約してください』というリマインドのメールを自動配信できます」(納屋氏)
モバイルオーダーシステムとの連携で当日の注文・精算の進捗状況を共有化し、効率的なサービス提供が可能に
さらに、顧客の利便性と現場の業務効率を大幅に向上させたのが、売り子ールをベースとするセルフオーダーシステムです。前述の通り、「スーパーボックス」は117室もあります。そこへ1試合平均1,000名の顧客が一斉に来場して料理を注文し、試合終盤になるとまた一斉に精算するわけですが、以前はそれに円滑に対応できるようなシステムになっていませんでした。
たとえば従来、顧客から部屋のiPadで料理の注文が入ると、その情報は厨房のプリンターから紙で出力され、ホワイトボードに貼られていました。そのため調理や配膳の担当者は、それぞれの業務をこなしながら常にそれらを確認し、遅延がないかなど、各注文の進捗に気を配らなければなりませんでした。精算に関しても同様に、フロントで出力された紙の明細を各部屋まで持っていき料金を受け取る、”この注文についてはこちらで払う”などの品目ごとの割り勘に対応するため一旦フロントへ戻るなど、時間と手間がかかりました。現場で培われたノウハウと経験があったからこそなんとか対応できていましたが、それでもときに調理や配膳が遅れる、試合終了までに精算が終わらないなどの問題は避けられませんでした。
新たなセルフオーダーシステムでは、注文の情報が厨房の画面および配膳担当者の携帯端末にリアルタイムで表示されるため、「調理中」「配膳完了」などのステータスをいつでも簡単に把握できます。また、遅延が発生すると赤くアラート表示されるなど、全体の進捗を視覚的に管理できます。
「精算についても、品目ごとの割り勘や領収書の発行などの処理を各部屋のiPad上や配膳担当者の携帯端末で行えるので、各部屋とフロントを何度も往復することなくその場で完結できます。担当者の往来は劇的に減りました」(西田氏)
顧客・現場の双方が喜ぶ「期待以上のシステム」で予約登録率10~20%向上、紙約98%削減などを達成
システム刷新・統合による「スーパーボックス」のサービス品質と業務効率の改善効果は、定量的にはっきりと現れています。たとえば、Web予約システムにおける画面・UIの改善やリマインドメールの自動配信の開始などにより、飲食物の予約登録率は10~20%向上し、売上も体感値で同程度増加しました。
「この数値には、Web予約システムへのログイン方法が、お客様へ郵送した紙のチケットに記載された番号を打ち込む方式から、メール記載のリンクをクリックして遷移するという簡便な方式に変わり、お客様が過去の注文履歴などを簡単に確認できるようになったことなども影響していると思います」(納屋氏)
サービス品質の向上という点では、精算時間の短縮効果も見逃せません。精算に要する時間は1件あたり約10分短縮。以前は1シーズンあたり5試合程度あった、試合終了までに精算が終わらないケースが、システム刷新後はじめて迎えた2024年シーズンには1回も発生しませんでした。
業務の効率化や生産性向上においても、新システムは威力を発揮しています。たとえばペーパーレス化については、会計明細や領収書、請求書、厨房・配膳の指示書などがデジタル化され、紙の印刷枚数は約98%削減されました。また、営業用のSalesforceで空室状況をリアルタイムに把握できるようになった結果、営業担当者から業務部門への空室確認の問い合わせは約30%減少しました。さらに、債権管理がシステム連携されたことで、従来のように営業担当者が売掛や前受などを経理部門と共有のExcelの台帳で管理する必要がなくなり、工数が約10%削減されました。
そうした業務効率化の結果、現場の担当者の働き方や業務に対する意識にも変化が生まれているようです。西田氏はいいます。
「たとえば各部屋の担当者は、今までのようにわざわざホワイトボードを見に行かなくても、調理や配膳、片づけなどの進捗状況を手元の携帯端末で把握できます。その結果、『注文がそれほど来ていない今のうちにお皿を下げておこう』『大変そうなこの部屋にヘルプに行こう』と自分で考え、お客様のためにより多くの時間を使えるようになったと感じます」(西田氏)
吉村氏は、そうした業務効率化と、「スーパーボックス」のそもそもの目的である顧客体験の向上は完全にイコールの関係にあるとした上で、最後にこう話しました。
「その意味で、今回のプロジェクトでは期待以上のシステム、お客様と現場の皆が喜ぶものを作り上げることができました。運営側の業務・管理面という“守り”の部分だけでなく、お客様に対するサービスという“攻め”の部分もしっかりとできていて、同業の方にもおすすめできるシステムだと思っています」(吉村氏)
会社概要
福岡ソフトバンクホークス株式会社
〒810-0065 福岡県福岡市中央区地行浜2-2-2
球団と球場を自社で保有している強みを活かし、地域に根差した企業として福岡および九州全体のスポーツ文化の発展や地域の活性化に貢献。ファンとの絆を大切にし、「鷹祭 SUMMER BOOST」や「ピンクフルデー」をはじめとする各種イベントや日常的な交流を通じてファンとともに成長することを目指す。
また、これまでの野球事業の枠にとらわれないエンタメ施設としてみずほPayPayドーム隣に「BOSS E・ZO FUKUOKA」を運営。あらゆる新規ビジネスを創出し、枠を超えた多角的なビジネスに挑戦している。
【事業内容】
プロ野球球団の保有、野球競技の運営、野球等スポーツ施設等の経営・管理、各種メディアを利用した映像・音声・データ等のコンテンツ配信サービス等
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