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AIはもう、企業だけの問題ではない。
国とテクノロジーの距離が縮まっていく時代に、私たちはどこに立つのか

「このAI、ある日突然使えなくなるかもしれない」――そう考えたことはあるでしょうか。

実際に、あるAI企業が自社のモデルの提供を、国の意向によって突然停止するという出来事がありました。AIはもはや、性能や使いやすさだけで選べるツールではありません。国家戦略や経済安全保障とも深く結びつき、企業の意思だけではコントロールできない存在になりつつあります。

AIが進化する時代に、本当に失ってはいけないものは何か。それは、人間が自ら考え、問いを立て、判断する”主体性”です。本シリーズでは、国・企業・個人という3つのレイヤーから、AI時代に人間が主体性を持ち続けるために必要な視点を、黒鳥社コンテンツ・ディレクター・若林恵氏をゲストにお迎えし、ウフル取締役常務執行役員・坂本との対話を通して掘り下げていきます。

2025年7月、ウフル主催イベント「AIと共創する未来」の対談セッションで、若林氏と坂本は「AIにビジネスモデルはあるか」というテーマで対談しました。その場で若林氏は、中国の産業インターネット政策を例に「いま必要なのは、”AIネイティブ”な視点で社会システムそのものを捉え直すことだ」と結びました。

それから1年。若林氏がこの1年で見つめてきたのは、AIの技術的な進化そのものではなく、国と企業の距離感でした。

若林 恵氏・坂本 尚也

KEI WAKABAYASHI × NAOYA SAKAMOTO
DIALOGUE ON “RECLAIMING AGENCY IN THE AGE OF AI” vol.1

01 / A Book on the Stateテクノロジーは、なぜ国の管理下に引き戻されているのか

坂本:
この1年間でAIの話題は急速に世の中へ広まっていて、もはやAIを見ない日はないという状況ですよね。若林さんは、個別の技術の動向というよりは、社会や国家、カルチャーといった、もう少し大きな視点から捉えていらっしゃるかと思います。最近では、たとえば『アメリカがこう言ったから、このモデルは使うな』というような、AIと国策・国の立ち位置との関係性が、急速に近づいてきているようにも感じます。この1年で、期待や違和感も含め、若林さんはどのように捉えられていますか。

若林:
今年に入ってパランティアのアレックス・カープの著書『テクノロジカル・リパブリック』の日本語版が出版されましたよね。あれは基本的に国とイノベーションに関わる話が主題ですが、それはつまるところ、企業とは何かという話でもありますよね。

アメリカでは、それこそ第二次世界大戦中から50年代あたりにかけては、テクノロジカルなイノベーションは基本的に国の管轄下にありましたが、それがある時点から民間主導になっていきます。その結果、民間企業で何が起きたかというと、ピーター・ティール的に言えば、ツイートできるとか出前が頼めるとか、どうでもいいことサービスをつくるばかりのものになってしまった、と。なので、この本の主旨としては、国と企業がもう少し、自分たちの国や文明の未来を一緒に考えて、一緒に進んでいかないといけないといったことを語るわけです。それって普通に考えると戦時体制の総動員体制のようなことになりますので、そう考えると、国と企業を結びつけましょうと言う話自体は、さして目新しいものでもないのですが、ただ、これが単に思想的な部分から呼び起こされているのかというと必ずしもそうとばかりはいえないような気もします。

と言うのも、なんでも繋げていってしまうデジタルテクノロジーは、かつてあったような区分け、例えば、国と企業、公共と民間といった区分けを溶かしていってしまうからです。そのことが端的に現れるのが、おそらくサイバーセキュリティです。サイバーセキュリティの話になると、ここまでが行政の管轄で、ここからは企業といった線引きができなくなってきて、民間企業のセキュリティの問題が国家安全保障の問題と地続きになってしまうわけです。簡単にいうと、サイバーセキュリティという論点においては、もはやエネルギー、交通、医療といったあらゆるインフラが軍事行動のターゲットになってしまうということですので、安全保障の名のもとに、なし崩しに企業も国家と一体化させられてしまうことになっていきます。これはもう、技術上の必然からそうなってしまうというものだと思いますので、どうしようもないといえばどうしようもないわけですが、『テクノロジカル・リパブリック』は、そこをもう開き直って、どうせ一体化しちゃうんだから、ちゃんと一体化させたほうがいい、という議論をしているのだと、自分は理解しています。

サイバーセキュリティって、結局「国の内と外」という線引きができなくなってくる。

若林恵氏

02 / Where Companies Stand国の中に、企業はどう位置づけられるのか

若林:
そうしたなか、実際アメリカを見ていると、国と企業が一体化していく流れが強まっていますし、AI企業などの動きや発言などを見ていても、いっそ国有化を望んでいるような節さえ感じます。日本も、少なくとも現政権がアメリカに足並みを揃えていくつもりなのは、ピーター・ティールのような人物と首相が会談していることからもわかりますが、その意味では、もう後戻りできないところまで状況は進んでいるように見えますが、そうした中で、企業というものが、今後国との関係において、どういう役割を果たしていくものになるのかは、すごく難しい話になってきているように思えます。実際、今年に入って、一番重要なテーマなんじゃないかなとすら感じています。

坂本:
今おっしゃったように、国と企業の結びつきが、急速に強まってきています。たとえばAnthropicが新しいモデルを一般公開したものの、国から言われて公開を停止した、ということがありました。AIへの依存度がある程度上がってしまった場合に、それが国の意思によって変えられる、止められる、という状態になりつつあるわけです。私たちは企業に対してAIの活用を提案する立場でもあるので、依存度が高すぎるがゆえに全面的に止められてしまうリスクをはらんでいるというのは、かなり大きなリスクだと感じています。その辺りの、国と企業の関係性についてはどうお考えですか。

若林:
そもそもAIみたいなものをどう捉えるべきなのかを改めて考えてみると、もちろん民間のサービスとして市場化する手もあるのですが、水道や電気のような一種の公共インフラとして考えるような視点もありえたのではないかとは思います。これは、ソーシャルメディアについても同様のことが言えたのだと思いますが、国が郵便や電信といったインフラを整備したときと同じような考え方がどこかで必要だったのかもしれません。それをあくまでも民間サービスだと言い張ったがために、民間企業が国家を凌ぐようなパワーを手にいれることになってしまいましたし、結局、それを一企業の理屈だけで動かしていいんだっけ、という話にもなってきてしまいます。そんなことを今さら言っても時すでに遅しではありますが、それでも、結局のところ、ソーシャルメディアもまた国家安全保障上の重要インフラだと見なされることになっていますので、それがたとえ民間のものであろうと、結局は安全保障の問題のなかに組み込まれてしまうことになってしまいます。

それが端的に現れたのが、TikTokのアメリカ事業が、オラクルのラリー・エリソンやアンドリーセン・ホロウィッツなどによって買収されたという出来事ですが、これは表向きには中国との鍔迫り合いのように見えていますが、実際にはイスラエルが情報戦を有利に導くための施策だったとされています。ネタニヤフ首相は、かねてよりソーシャルメディアがイスラエルにとって重要な「戦場」だと語ってきましたが、そうした観点からすると、ソーシャルメディア自体が、もはや「戦闘地域」であり「軍事的な装備」なんですね。といって、これは、取り立てて突飛な考えではなく、むしろ「ハイブリッド戦争」という考えに則ればごく常識的な見方で、日本に新たに設置される国家情報局も、こうした考えを前提に設置されることになっているはずです。

坂本尚也

03 / Two Models of the Garden自由市場という”庭”を、誰が管理するのか

若林:
すでに状況がそういうことですので、AIのようなものを、どうガバナンスしていくのかというのは、とても難しい問題で、国に管理を任せるといっても、ここまで高度なテクノロジーを国家がイノベートし続けられるわけもありませんから、イノベーションを阻害しないようなかたちで、国が握力を保持し続ける必要があるのかもしれません。その点で、うまくガバナンスできているように見えるのは中国です。

中国は、そもそもインターネット、AI、そしてグリーンエネルギーを、次世代の産業インフラとみなしてきて、それらを農業、医療、交通、といった産業部門別に実装することを推進してきました。中国は、あくまでもこうした新たな技術を、あらゆる産業の底流に走るべきインフラだと考えたわけですが、それはまさに、産業を近代化させるにあたって電気や水道、通信や道路といったインフラの整備が必須だという考えと同じです。別の言い方をするなら、中国はAIやインターネットといった技術を水平に走るものだと考えていたところ、日本を含む西側の先進諸国は、それを垂直に立つ新たな産業部門と見なしたところに違いがあったとも言えるのかもしれません。

結局のところ西側諸国は、21世紀には21世紀の社会・産業インフラが必要になる、それに向けた全社会的なアップデートが必要になるということに、ちゃんと向き合えてこなかったということなのかもしれません。中国はこの10年ほどで驚異的なスピードで高速鉄道を敷設してきましたが、同じことをずっと語ってきたアメリカはいつまで経っても、それが実装される気配は一向にありません。もっとも、こうしたインフラ整備は、政府がかなり強い強制力を発動しないと実現しませんので、環境配慮や人権配慮といった論点が優先される西側では、それが足枷となって思うような実行力を発揮できずにいます。強い指導力をもったリーダーが社会から求められる背景には、こうした問題もあるのではないでしょうか。

坂本:
国は介入してきていますが、たとえばXで言えば、イーロン・マスクのような個人が率いる民間企業が、公共インフラ化しているものの舵を取っています。Anthropicであっても、結局はダリオ自身の思想が、ルールや意思決定に色濃く反映されている、という状況が、国との関係性の中に存在しています。それが良いのかどうか――仮に国有化した場合に、そもそもそういうもの自体が生まれてくるのか、というところも含めて。

若林:
そこは難しいところですね。中国がうまくやっているのは、その部分においてでもあります。例えば、イノベーションを起こせと言われても、国有企業というのは基本的に重く、鈍い重工業をやるための仕組みでしたから、新しいアイデアを生み出すことには長けていないんですね。ですから、中国では相変わらず重たい基幹インフラは国主導でやり、それが行き届かない毛細血管のような部分を民間が行うという棲み分けがあるという説明を受けたことがあります。

AIやEVといったイノベーションの重点領域については、どっと予算をつけて支援はしますが、自由競争が起きるための庭を用意して、そこで競争をさせて淘汰させるという仕組みで、EVなんかでも、数百社がいきなり出てきて、熾烈な競争をして、最終的に十社ほどが残る、というふうにしていくわけですね。アリババやテンセントといったスーパーアプリ・プラットフォームも基本的に一社に絞らず、二社くらい残しておいて、政府はその裏にバックドアをつくっておいて、必要とあらば、すぐに介入できるようにしておくわけです。自由市場でイノベーションを生む市場としてはちゃんと活性化させながら、市場が安定的に出来上がったら、しっかりと規制していく。そういうやり方が一番現実的なんじゃないかな、という気はします。

自由市場でイノベーションを生む市場としてはちゃんと活性化させながら、領域はちゃんと管理する。
そういうやり方が、一番現実的なんじゃないか。

「自由市場に任せておけばいい」という前提そのものが、もはや成立しなくなりつつある――それが、この1年で若林氏が見てきたもの。国とテクノロジーの距離が縮まっていく中で、企業や個人ができることは、この流れに無自覚に巻き込まれるのではなく、まず自分たちが「何を軸にAIと向き合うのか」を、自前で持っておくことなのかもしれません。

第2回では、視点を国から個人の思考へと移し、若林氏の「AIは受注仕事にしか使えない」という指摘から、AIには真似できない人間固有の思考プロセスについての対談模様をお届けします。


第2回「受注仕事に最適化されたAIと、消えていく思考のクセ」へ続く →

SPEAKER

若林 恵

若林 恵 Kei Wakabayashi

黒鳥社コンテンツ・ディレクター

黒鳥社コンテンツ・ディレクター。平凡社『月刊太陽』編集部を経てフリー編集者として独立。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社設立。著書・編集担当に『さよなら未来』(岩波書店)、『実験の民主主義:トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ』(宇野重規との共著/中公新書)など。「こんにちは未来」「メタバースえとせとら」などのポッドキャストの企画制作でも知られる。2025年2月、東京・虎ノ門に書店+ギャラリーTIGER MOUNTAIN(タイガーマウンテン)をオープン。

SPEAKER

坂本 尚也

坂本 尚也 Naoya Sakamoto

株式会社ウフル 取締役常務執行役員

1998年 早稲田大学教育学部 卒業、コンサルティングおよび事業会社における経営企画/事業企画を経て、アンツ・アイ・ビュー・ジャパン(BULB)に創業期より参画。ソーシャルエンタープライズ構築における、コアバリューの再構築、戦略立案に従事した後、2014年にウフルへ経営統合により参画。2020年7月当社常務執行役員、2022年9月当社取締役就任。

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